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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)1583号 決定

本籍ならびに住居

北海道沙流郡平取町一九八番地

農業

平村啓吉

大正四年一一月一〇日生

右往来妨害被告事件について昭和三〇年四月二八日札幌高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人の上告趣意は、事実誤認及び法令違反、弁護人塩谷千冬の上告趣意は事実誤認をそれぞれ主張するものであつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。所論は被告人が原判示のごとく丸太棒杭を打ち込み、有刺鉄線を張り渡した敷地部分は被告人の私有地であるから、被告人の原判示所為は、往来妨害罪を構成しない旨主張するのであるが、刑法第一二四条第一項にいう陸路とは、公衆の往来の用に供せられる陸上の通路を指称し、その通路敷地所有権が何人に属するかを問わず、いやしくもこの陸上の通路に障碍物を設け、該通路による往来の不能または危険を生ぜしめたときは、陸路を壅塞したものとして、右法条の往来妨害罪が成立するものというべく、記録によれば、被告人が原判示のごとく丸太棒杭を打ち込み、有刺鉄線を張り渡した原判示平取村亜別三二一番地幅員約三メートル、長さ約一八〇メートルの敷地部分は、まさに所論のとおり被告人の所有に属することは認められるが、該敷地部分は、大正九年四月一日アベツ川沿一号線として町村道路線認定を受け、その認定前から現在に至るまで長年月に亘り、平取村亜別部落より同村市街地に通ずる車馬交通の唯一の道路として公衆の往来の用に供せられる陸上の通路となつていることが認められるのであるから、右は刑法第一二四条第一項にいう陸路に該当し、従つて被告人の原判示所為が右法条の犯罪を構成すること絮説を要せず、論旨は理由がない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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